1983年3月 滝高等学校卒業
1983年4月 名古屋大学工学部入学
1991年3月 名古屋大学大学院博士課程修了 工学博士
1991年4月~ 名古屋大学工学部 助手
1997年5月~ 名古屋大学工学部 助教授
2006年4月~ 東北大学大学院工学研究科 教授
2011年4月~ 東北大学 電気通信研究所 教授
主な受賞)
Ig Nobel Prize, Cognitive Science Prize(イグ・ノーベル賞,認知科学賞)(2008年10月)
IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems Best Paper Award(2005年7月)など
所属学会)
日本ロボット学会,計測自動制御学会,日本機械学会,日本数理生物学会,IEEE など
メディアでの研究紹介・報道等)
NHK教育テレビ 大!天才テレビくん(生き物のようなロボット)(2011年10月26日)
ヘビ型ロボット 蛇行なめらかに 東北大「関節」ごとに制御,日経産業新聞(2009年9月9日)
NHK教育テレビ サイエンス・ゼロ(ロボット研究者も注目! 粘菌の不思議な動き)(2008年5月24日)
“ご専門は?”
生き物が示すしなやかかつタフな振る舞いのからくりをさまざまな「模型」を作りながら理解する、という研究をしています。ここで「模型」という言葉を使いましたが,僕の研究ではそれは「数式」や「ロボット」のことを指しています。生物学者は生き物に電極を刺したり、薬品を注入したり、分子レベルで調べるなんてことをするわけですが、僕らの研究では、生き物の動きを観察して、どんなふうに動いているか数式を使って仮説を立てます。これをロボットで再現して、同じような振る舞いができたら、やったー!ってわけです。大風呂敷を広げさせていただければ、僕自身は新しいタイプの生物学者であると考えています。
”す、数式ですか?”
あ、そうです。こんな感じのものですよ。(といって、ホワイトボードを指さす)
“・・・・???・・・どこかで見たことがあるような数式もありますが、、、難しいですねー。”
生き物を突き詰めれば、タンパク質や水などの物質に至ります。こういった物質から巧みな「からくり」を通して、生命現象や知能といった現象を生み出しているわけです。「モノ」から「コト」への見事な転換ですよね。このからくりが明らかになれば、金属や半導体、高分子などの材料から出来ているロボットからでも、同じような「コト」、つまり生命や知能(っぽい現象)を生み出すことができると考えてもいいのではないでしょうか。「生き生きとした」ロボットなんて素敵ですよね。こういった「思いっきり楽天的な」仮説に基づいて、数式やロボットなどのさまざまな模型をいじくりながら研究するのが僕らのアプローチです。その意味で僕らの研究は、生物学やロボット工学はもとより、数理科学や物理学などさまざまな学問領域が交差するようなところに位置する研究です。
”アメーバ運動といえば、粘菌で賞を受賞されたと聞きましたが”
はい、真正粘菌が示す知的な振る舞いのからくりを、ロボット工学や数理科学の観点からサポートしたことで受賞者に加えていただきました。
生き物が示すしなやかな振る舞いのからくりを理解したいとのモチベーションを持って研究しているわけですが、いきなりヒトのような高等な生き物が示す動きに着目しても、複雑すぎて消化不良を起こすのは目に見えています。そこで僕らは、単純かつ原始的だけれども、からくりを調べるのに適した生き物を徹底的に調べようと考えました。それが真正粘菌と呼ばれる単細胞生物なのです。これが示すアメーバ運動をいろいろと調べてきました。この研究で得られた結果をベースとして、今ではアメーバ運動からヒトの走行運動に至るまで、生き物が示すさまざまな運動様式の背後にあるからくりを調べる研究を進めています。
”ところで写真を撮りたいのですが、上着なしでいいですか?”
はい、これでいいです。いつもこんなカジュアルな服装です。堅苦しい格好は好きではないのです。
靴も嫌いです。だから研究室はこの部屋も学生の部屋も土足禁止にしています。そうすれば、ロボットを床に置いて動かしたり、その横に座って観察や議論したり、時には寝そべって論文読んだり...そんな自由な環境でないと。机に張り付いて考えてばかりいても煮詰まることが多いので。
まだ時間ありますか?研究室をご案内します
(別の部屋に移動)
▲ 土足禁止の研究室
ここは生物実験室です。
この水槽でうごめいている生き物はクモヒトデです(左)。5本の腕を状況に応じて巧みに役割分担しながら動くのですが,驚くべきことに中枢となるような神経系はありません。分散化された神経系でこんなすごい動きを実現しています。現在、この解明のための模型=数式とロボットを製作中です。
こちらの冷蔵庫の中には、ムカデもいます。このビーカーの中にいるのがそうです(右下)。膨大な数の脚をうまく協調させるメカニズムを調べています。
ここは、ロボットを作る工作室で、いろんな工作機械が並んでいます。
さて、ロボットをお見せしましょう。
これはヘビロボットです。ヘビみたいな形をしていますが,じつは単純な脳みそしか持たない小さなロボットがひも状につながってヘビのようなロボットを構成していると考えて下さい。その意味で、制御が地方分権化されているロボットの集合体ですね。
“1つ1つにマイコンが入っているのですか?”
はい、各パーツにマイクロチップが入っています。
これはヘビの模型ですが、実は人間の脊髄にも歩行や走行の制御を司る神経回路があって、地方分権化された構造を持っています。なんでもかんでも大脳で制御しているわけではありません。今、世の中にあるロボットはほとんどが中央集権的で、一か所で集中して指令を出しています。しかし、生物の世界では中央集権よりもむしろ地方分権が一般的なのです。しかしそのからくりがわからないのです。単純に分散化してしまうと、船頭多くして船山に上るとか烏合の衆となってしまいます。こういったことにならずに、三人寄れば文殊の知恵のようなことをどうやって生き物は実現しているのか...現在、このあたりの新しい理論を論文化している最中です。
(▼四足動物の模型)
(部屋に戻って、研究室パンフレットを見ながら)
”実世界コンピューティング研究室 が正式名称なのですか?”
はい、そうですね。実世界ということがとても大切です。人工知能はいまやチェスの世界チャンピオンを破りました。将棋もかなりのところまで来ています。でもそれは「盤上」という限定された環境であることに注意しなければなりません。実世界環境は、予測不能的に変化します。「盤上」という環境とは比べものにならないくらい厳しい環境なのです。それでも生き物は原始的なものであっても、うまく対処しながら生きている。そのからくりとは一体何か...それを心から知りたいと思っています。
実世界の解明のために、フィールドワークもバンバンしています。沖縄に行ってヒトデをとってきたり、群馬県にあるジャパンスネークセンターにヘビの実験に行ったりしています。
数学者や生物学者とも積極的に共同研究しています。来週は北大で友人の生物学者と、クモヒトデの神経系を染色したり電極を刺したりしながら神経の働きを調査することになっています。知能の仕組み、地方分権の仕方はまだ全然わかっていません。だから僕ら自身でも生物を勉強して、そこから学んでいくしかないのです。
”研究以外に普段はどんなことを?趣味は何ですか?”
カメラを持って歩くのが好きです。青葉山キャンパスも片平キャンパス周辺も随分と歩いています。また、路地を探検しながら写真を撮るのが好きです。ヨーロッパの路地裏散策が大好きですが,仙台もなかなか捨てがたい魅力がたくさんあります。
”滝学園の思い出は?”
みんな優秀な奴ばかりで本当に刺激的でした。でも当時は門のすぐそばに鶏小屋もあったりして、牧歌的な雰囲気が合ってよかったです。男女共学だったことも大きなポイントですね(笑)。いやー、楽しかったですねー。特に忘れられないことは、高校の文化祭で女装して、校内を走り回ったこと。今そんなことしたら大変ですが(笑)。体育祭で深夜から朝まで準備したこと、あの時は、おみこしを作りました。高校3年生の時でしたが、発散するというかエネルギーを爆発させるような経験をすることはいいことですね。懐かしいですね。滝の皆さんにどうかよろしくお伝え下さい。
▲研究室に飾ってあった、各種受賞の賞状
取材にご協力頂きありがとうございました。今後の研究成果を大いに期待しましょう!
2011年11月9日取材、
東北大学電気通信研究所にて
(文責:S57卒 佐宗美智代)