NHK 科学・環境番組部 専任ディレクター
経済産業大臣認定 消費生活アドバイザー
1982年 滝高等学校卒業
1982年 名古屋大学文学部入学
1987年 NHK(日本放送協会)入社
東京2年、静岡4年勤務の後、東京に戻り、科学・環境番組部へ
「くらべてみれば」(91~93年)最後の年から制作にたずさわり、
「なせばなるほど」(94年)の後、「ためしてガッテン」(毎週水曜夜8時~NHK総合)立ち上げに参加、以来丸16年間、同番組制作担当。
現在、12人のディレクターを抱え、演出担当デスクとして、番組を
取りまとめている。
著書:「かまぼこはなぜ11ミリ切るとうまいのか」サンマーク出版
「食育ビックリ大図典」東山書房 「死なないぞダイエット」メディアファクトリー
「死なない!生きかた~学校じゃあ教えちゃくれない予防医療~」東京書籍 ほか
“ためしてガッテンのディレクターをやっていらっしゃるそうで?”
最初はヒラのディレクターでしたが、今は若いディレクター12人の相談係的な役割で、毎週すべての番組内容をチェックしています。12人というのは、1人が12週、つまり3か月かけて一つのテーマで制作しているので、12人いるわけです。
ためしてガッテンはもうすぐ17年めになりますが、この番組を立ち上げようという時からずっとやっています。昔、山川静夫アナウンサーがやっていた「ウルトラアイ」から脈々と続く科学バラエティ番組ですが、山川さんの「くらべてみれば」の最後の年からかかわっています。もう、20年近くも生活はこれ一色ですねえ。
ほとんど毎週メインのアイデア出しをして、結果としてほぼ全体の演出にかかわっています。
”番組の視聴率いいですよねー?”
あ、でも今年度(20年度)から裏に池上さん(「そうだったのか!学べるニュース」)が来たからねー。池上さんさえ来なければもっとよかったんだけど・・(笑)
”NHKでは、ずっと番組作りを?”
そうですね。営業とか記者職はやってません。普通は4年に1度くらい転勤がありますが、僕の場合は、最初は東京に2年、次に静岡に4年いたあとは、ずっとここです。途中NHKスペシャルを2本シリーズで1回やっただけで、あとは、ずっとガッテンです。なんの偶然かわかりませんが…。
ま、NHKにも、そもそも偶然入ったんですけどね。
”えっ?NHKに偶然入った?”
ええ、名古屋大学文学部に5年いましたが、それは働きたくなかったからです、たぶん。
4年の時、親が病気になって海外に行けなくって、会社に入ったら無理だと思い、海外に行くためにという名目で留年しました。就職したくなかったんです。やっぱ学生がいちばんですから。
でもまあ仕方なく働くことにして、考えてみたら、営業無理、経理というかお金の計算無理、ネクタイ無理と消去法で行くと何も残らず、さて、どうしようといった時に、たまたま会った同級生に、「就職どうしよう?」って言ったら、「そういえば、今日NHK締切ですよ」と言われ、「え、そうなんだ」って。ちょうど彼が履歴書を余分に持っていたので、それを1枚もらってNHKに応募しました。
ラッキーだったのは留年したこと。前年まではNHKは大学ごとに願書の数が決まっていて、名大の文学部からだと2人しかもらえないので、絶対無理でした。ところがその年からは誰でも応募できるようになった。だから今自分がここにいるのは完全に、留年したおかげです。
”番組作りで苦労したことは?”
苦労? うーん、手間暇かかること以外はないですねー。演出上はものすごく悩みますけど。
うちの会社も含めて、普通マスコミは、いかにいい情報をとってきて、それを流すかがポイントだと思いますが、僕たちは、まずその情報が確実に受け取ってもらうにはどうすべきかを死ぬほど考えて、受け取った人達がその人の生活の中で何かを変えて、幸せを味わってもらうためには、どうするとよいかまで本気で考えます。苦労がないと言えるのは、そうしたほうがお客さんにホントに喜んでもらえるからです。相手がうれしい時が、人間いちばんうれしいわけだから、苦労には思えない。
ただ、そこにこだわり過ぎているからか、すぐに朝になりますよ。夏は嫌いになりましたねー、会社ですぐに明るくなるから。一週間、ほぼ毎日3時、4時(午前)はごく普通です。その他に特殊事情として、講演と執筆が増えてきたので、自分の時間はないです。
講演は年に40~45回ぐらい。土日も多いです。一年以上先まで埋まっています。
保健師さん、栄養士さん相手に健康情報のプレゼンテーションの研修をしたり、あとは一般住民や企業向けに、健康作りの話、メタボの話など。
”ネタ切れにはならないのですか?”
もう7、8年前からずっとネタ切れです(笑)。番組はもうすぐ700回になりますから大変です。
特に、山瀬まみさんにガッテンさせるのがねー。彼女は、僕がこれまで出会った頭のいい人、5本の指に入りますね。過去にやった内容をほとんど覚えてますよ。ずっといる山瀬さんを、ずっといる志の輔さんが納得させないとガッテンできないけど、そんなネタそうそうは無いに決まってますよね。なんでこんなに続いてるのかなー。
”ゲストの話は台本があるのでは?”
こちらではもちろん台本を作ります。でも、その台本は一切ゲストには見せません。テレビを見ているお客さんと同じ状態にしておきたいから。だから、リアクションはすべてナマです。つっこみもナマ。話をこう進めればゲストがたぶんこんな質問をするだろうって想定して、見せない台本を作ります。
予想外の質問がきて、思わぬ方向に行くこともありますが、それが結果として良いこともありますし、収集つかなくなったところは編集でカバーします。この台本通りにいかないバクチのようなところが面白いから、十数年も飽きずに続けていられる感じです。
”1回の放送はどれくらい準備を?”
外へのロケは2週間、事前の取材が3週間、帰ってからの編集も長く、編集と台本作り、収録とその後の編集で数週間。で、実質10週間以上はかかります。
何より、ネタを考えるのが大変です。
例えば、ハンバーグとかチャーハンとか、たいていの料理・食材は既に放送しちゃってるわけで、全く新しいものとなると、無理やりどこからか探すか、又はスタッフが自ら研究することになります。
「ゆで卵のむき方」なんてのは、まさにスタッフの研究の成果。ちなみにGyaO!ってサイトの5分番組で、クリックが史上最高だったそうです。
今話題の「計るだけダイエット」も僕が10年以上も前に考案したものです。
”私も毎日測ってみたけど挫折しています。最近はジムで運動しているんですけど”
単に食べすぎですねー、それは(笑)。「計るだけ」だけといっても、朝晩2回測って、その傾きを見て自分で食べる量を調節するのが重要なんですよ。体重は結局のところ、毎日使うエネルギーと、摂取エネルギーの足し算引き算ですから。
運動だけではやせません。2時間ずーっと走っても、たったの138g減るだけですからねー。食事で減らしたほうが圧倒的にラクです。ずっと停滞してるってことは、「今の量食ってるうちは減らないことが明らかになった」ということです。
ま、これだけで2時間しゃべれますが。(といって、少し説明
”ところで、ためしてガッテンという名称は?”
前身の「なせばなるほど」という番組は、すごくよく練られたタイトルで、ある夢を実現したい人がそれを実現するためにどうしたら良いかを科学で助けるという内容だったけど、演出に懲りすぎて見ている人が疲れたのでは?という反省から、単純に「ためしてみようよ」という発想に。実験の面白さを全面に出しました。
今のタイトルは、当初は小学校の理科の番組みたいだと思ったけど、思ったよりお客さんの食いつきはよかったです。「ガッテン、ガッテン!」ってのが、認知されやすかったんですね。
「ガッテン」は、最初から僕たちスタッフはカタカナで考えていましたが、NHKのエラい人が漢字でないとダメだと意味不明なことを言い出して、だから初年度だけ正式名称は漢字だったんです。反抗して漢字をすごく薄~い文字にして、その上に片仮名のガッテンを大きく重ねたら、次の年から、「見えにくいから片仮名にしろ」だって。
僕は上の人、エラい人とはけっこう、喧嘩をよくします。会長宛ての直訴状も書きましたよ、何度も。進んで。偉い人のためじゃなく、お客さんのためにやってるわけですから。でも、どんなに歯向かっても飛ばされないのは、いい会社だなーと思います。
”視聴率ってよく聞きますが、NHKでも影響あるんですか?”
ええ、すごく気にしていますよ、僕たちスタッフは。最近はエラい人たちが気にしすぎて面倒だったりしますけど。「番組中は基本的にずーっと右肩上がり」というのを、十何年も続けている日本でも珍しい番組がガッテンです。つまり、途中から見た人も含めて最後まで見てもらうということ。
(社外秘視聴率グラフを少しだけ拝見) 一番とれた時は、毎週のように22~3%とっています。
うちの番組には、「1ケタクラブ」というのがあって(笑)、ほとんどのNHKの番組は毎週コンスタントに1ケタですけど、うちはごくたまにしか1ケタはないんですよ。で、とっちゃた人は入会できるというワケです。不名誉な感じですけど、そういう放送回は、たいてい、果敢に難しいネタにチャレンジした時なので、むしろ本人は誇りにしていたんです...けども、最近は1ケタクラブ会員が増えちゃって。裏に池上さんが来てから、もう取られっぱなしで。全然名誉でもなんでもなくなってしまいましたねー(笑)。そんなこんなで、ディレクターは本当に気にしていますよ。視聴率。
(*北折注: その後、年度の後半は「ガッテン」も盛り返して、ちょくちょく逆転してます。と思ったら、池上さんの降板が決まり、寂しいような…。)
うちのスタッフは毎週必ず番組収録後に打ち上げをします。彼らは、3か月死ぬ思いで作ってきているので、そのディレクターの思いをくんで、皆んなで視て、皆んなで飲む。もちろんその日の担当ディレクターの行きたいお店に行って、本人が帰るというまでつきあいます。僕だけは毎週です。もう10数年、毎週水曜は朝まで飲み会です。かなりしんどいです。
”みなさん打ち上げに参加?”
志の輔さんとか小野アナウンサーも参加したことありますが、タレントさんには声をかけてないですね。なにしろスタートが夜10時すぎくらいからですから。番組収録は、水曜の午後3時から2~3時間とって、それを43分に編集するのですが、水曜は8時からオンエアがあるので、その対応とかが終わるのが夜10時頃になるのです。でも、スタッフがまとまって仲がいいから、毎週けっこうな人数が参加しますよ。
▲北折氏の著書本
「レク」って慰安旅行が、昔NHKにはありましたが、未だにうちのグループだけは行っています。その前後に徹夜が続いてるような人も無理やり来るんで、毎年、40人ぐらい参加しますね。交代でディレクターが企画して、夜中にドンチャンできるように貸切の場所でやります。大抵、新人か新人に近いディレクターが担当しますが、真夜中に七輪焼きコンテストをやったり、面白い企画を考えます。面白くないと、代々語り継がれます(笑)。こういう企画力は、番組演出で相手を楽しませるにはどうしたら良いかという勉強にもなると思っています。その他、忘年会は80人くらい。CG、メイク、カメラマンなど関係するスタッフも参加して。
実はこういうのって、危機管理上もすごく大事だと思っています。
あくまでも一般論ですが、テレビの番組には、普通にねつ造がおこっても不思議ではない面があります。どうしても計画した通りにいかないことが多いですから。
ためしてガッテンでは、こういうスタッフの一体感が、ウソをつきたくない体質を作り上げると思っています。つまんないウソひとつで、番組なんて一発でぶっ飛びますから。実験がうまくいかなかった時にごまかすのではなく、「どうしたらいいすかねぇ?」とふつうに相談できる。正直であった方が、結果が必ず良い方向になることを、皆がわかってる。
間違った時にうそをつく、というのは出来心だと思いますが、これは指導だけではぜんぜん無理です。
このすばらしいメンバーに恥ずかしい、迷惑かけられないから、ウソをつきたい気持ちすらおこらない。危機管理としても、こういうムードづくりは大切だと思います。ただねえ…、お金はかかります。飲み代は全部自腹だから。僕の場合、ほとんど「業務」以外の何モノでもないと思うんですけどねー(笑)。
”今後も番組作りを?”
以前、地方に行って管理職にならないか?と言われたことがありましたが、きっぱりと断りました。
断ると居場所がなくなるかもと思いましたが、ほどなくして、管理職にならなくてもいいというコースが正式にできました。「専門職」になったわけで、会社の事情だけでの転勤はしなくてよくなりました。
ちなみにこの制度、かつて今の40代半ばの世代をかなり大量に採用したため、すべてを管理職にしたら管理職だらけになる、というNHK組織の事情からですが、僕にとってはラッキーなことでしたね。現場で番組作りを続けたいですから。てゆーか、この会社で管理職になって何が面白いのか、僕にはわかんないままなんで。そもそも、お金の計算もネクタイも無理だから選んだ仕事ですもんねえ。
***** 取材時にNHK内をご案内して頂きました。 *****
▼北折氏のデスク
机にあふれんばかりの資料
▼机の上
文字は、画像処理ではありません。こういう看板が写真をとろうとすると、さっと出てくる。意外にもアナログ的でびっくり。
▼なんだかわかります?
本棚の横に立てかけてありました。
番組のキャッチフレーズを、こんな大きなボードに書いて、皆で考えるそうです。
このキャッチコピー一つを考えるのに、大の大人が6人がかりで40分かかったそうで。
▼スタジオ。今日は別の番組のセットですが。
▼スタジオの隣の倉庫にはガッテンの大道具が
▼「ガッテンの間」と書かれた部屋。
小道具が置いてある倉庫です。
▼大道具裏側
▼倉庫入口
▼これは、ガン細胞になる前の正常な細胞だったかなー?
▼「痔」の回で使った「トイレくん」でーす
取材にご協力頂きありがとうございました。これからの番組作りも期待します。
ためしてガッテン、みんなで見ましょう!
2010年12月17日取材
NHK渋谷放送局にて
(文責:S57卒 佐宗美智代)